私は東証1部上場企業で研究開発職として7年間仕事をしてきました。
特徴① 特許を読むのが苦じゃない人
企業で働く研究者のミッションは、他の企業がまだ発売していない新しい製品を生み出すことです。
新しい製品が出来たら、他社に真似されないために特許を出願することになります。
特許を読んだことある人ならわかると思いますが、嫌がらせか?と思うくらい読みにくい文章で書かれています。
例として、エポキシ樹脂の特許を見てみましょう。
【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、成形性、耐湿信頼性に優れた封止用エポキシ樹脂成形材料及びその成形材料から成形した筐体と蓋体とにより素子を封止した素子収納型半導体パッケージに関する。 【0002】 【従来の技術】 従来から、トランジスタ、IC、LSI等の半導体素子を封止するパッケージの分野では酸化カルシウム(CaO) 酸化カルシウム 請求項1 1又は2 1~3 生産性、コスト等の面から樹脂封止が主流であり、樹脂としてエポキシ樹脂成形材料が広 く用いられている。 一方、筐体および蓋体によって素子を密封する素子収納型のパッケージで、CCD、CM OSイメージセンサー等の固体撮像素子等を封止する場合は、これまで耐湿性の観点から…
日立化成工業株式会社, エポキシ樹脂形成材料及び素子収納型半導体パッケージ, 特許第3982320号 より引用
どうでしょうか。
かなり読みにくく無いでしょうか?
他の分野の特許も似たり寄ったりです。
私の場合は少ない月で20件、多い月で100件以上の特許を読んでいます。
仕事全体うち10~20%は他社特許を読んだり、特許の文章を考える時間に割いているので長い文章を読むのが苦手な人は、結構しんどいです。
研究者として活躍しているのは、他社特許(つまり他社の技術)の知識が多い人です。
すごくいい製品が開発できても他社が既に特許を抑えていたら製品化できないので、他社の動向を知るためにも特許を読むことは避けられません。
読むうちに特許の文章に慣れてきますが「特許読むの嫌だな。めんどくさいな。」という気持ちはやはりあるので、自分が我慢できるレベルかを考えてみてください。
特徴② プレゼンが得意、もしくは努力して得意にできる人
研究者って「ずっとフラスコとにらめっこしている」イメージがあるかもしれません。
しかし研究者もサラリーマンです。
「こんなにすごい成果を出しました」と上司にどれだけアピールできるかによって、研究者としての評価が大きく変わってきます。
営業マンだったら「数字」が成果として現れるので誰が営業として優秀か比較しやすいのですが、研究者は「製品化したものが売れた」だけでは相対的に優秀な研究者とはなりません。
なぜなら実験テーマがそれぞれ違うのでテーマの難易度や、製品化できたときの売り上げ規模も当然違ってくるからです。
じゃあ何が評価の基準になるのか?
上司が「すごい」と思ったら評価が上がる傾向が強いです(笑)
売り上げに貢献できていなくても、上司が「この難しい検討テーマをここまで前進させたのはすごい」と思ったらS評価です。
「私はこんなにすごい実績がある」とアピールできるプレゼンスキルがあると、かなり周りと差をつけることができます。
逆に、自信のないプレゼンをして上司から成果が無いように見えてしまうと、別の部署に飛ばされることもあります。
社外向けの仕事にもプレゼンスキルは必須です。
例えば、自分が開発した製品を売り込むために、客先でプレゼンをすることがあります。
いわゆる技術営業です。
化学メーカーはたくさんありますし、儲かる業界であればあるほど競合も多いので、まずはお客様に「評価してみたい」と思っていただかなくては始まりません。
プレゼンの腕を磨くことは研究者の必須スキルになっています。
特徴③ 後輩の面倒をみるのが好きな人
事業規模にもよりますが、1つの製品に配置される研究チームは5〜10人程度の場合が多いです。
研究員の数は多くても、用途ごとに細かくチーム分けされたり1人2人の研究者しか配置できない規模の小さい製品は、他の研究チームに統合されたりするからです。
ある程度年齢が上がれば後輩指導もあなたの重要な仕事になります。
具体的に想像するために、私が所属しているチームの場合で考えてみましょう。
チームは以下の8人で構成されています。
チームリーダー1人
サブリーダー1人
メンバー 4人(私はここ)
実験補助としての派遣さん 2人
後輩や派遣さんに実験方法を教える際、安全に実験できるよう教育する責任がありますので相手の行動と思考に気を配れるかは超重要スキルです。
「これくらい言わなくても分かるでしょ」は通用しません。
自分と他人の考え方は当然違うので、自分から見れば「え、なんでそうなるの?」という行動を取ったりします。
それでも根気強く教え続けなければいけません。
研究者として上に行けば行くほど、部下や後輩を指導する機会は多くなります。
チームリーダーになった時は、自分の仕事をしながら部下がやる気をもって仕事に取り組めているか、実験に行き詰まっていないか、気にかける必要があります。
後輩や部下を指導するより自分の仕事に没頭していたい、という人でも人を育てることに時間とエネルギーを割く時期が来ることを覚えておきましょう。
特徴④ 異分野の研究に興味が持てる人
長く研究者を続けていると、他のチームで使っていた新しい試薬が自分の研究にも応用できた、ということが多々あります。
この応用が競合企業との差別化につながる発見になります。
例えばあなたがシャンプーの研究者だった場合、ライバル企業の研究者も同じようにシャンプーの特許や論文をチェックしているはずです。
でもあなたがシャンプーボトル(異分野の技術)について詳しくなれば、保存料が少なくても長期保存できるようなボトル構造とセットで新製品を開発できるかもしれません。
自分の専門分野だけでなく他の業界の研究者の発表に興味を持って聞きにいく、そんな姿勢が研究者には求められています。
特徴⑤ ”独特な匂い”を我慢できる人
鼻が効く人には、研究室で過ごすこと自体が辛いものになります。
アンモニアの刺激臭が有名ですが、実験室は常に独特の匂いが漂っています。
無臭の試薬しか使わない部署を、私は見たことがありません。
もちろん従業員の身体を守るために排気設備は法律の基準をクリアしたものを使用しているのですが、「身体に影響がない」というのは「匂いが全くしない」わけではないので、試薬の匂いを不快に思って、辞めていってしまう派遣さんは結構います。
毎日のことなのでだんだん慣れてはいきますが、何十年も化学薬品の独特の匂いに耐えられるか一度考えてみたほうがいいかもしれません。
最後に
いかがだったでしょうか。
最後に研究者が向いている人の特徴を全部まとめます。
特徴① 特許を読むのが苦じゃない人
特徴② プレゼンが得意、もしくは努力して得意にできる人
特徴③ 後輩の面倒をみるのが苦じゃない人
特徴④ 異分野の研究に興味が持てる人
特徴⑤ ”独特な匂い”を我慢できる人
研究職は潰しがききにくい職業なので、自分は研究者に向いているのか一度じっくり考えてみてくださいね。